あれは数年前のことでした。まろんの体を触っていて、ぷにゅぷにゅとしたしこりのようなものが…最初はニキビのような膨らみだったはずが、数か月で少しずつ大きくなっているような気がしました。動物病院でうけた診断は「脂肪腫」でした。
脂肪腫ってなぁに?
脂肪腫とは、脂肪細胞のかたまりでできている良性腫瘍です。脂肪腫のまわりは薄い皮膜で包まれていて、触ると柔らかいのが特徴です。少しずつゆっくりと大きくなっていくことが多いです。その大きさは1cmくらいから握りこぶし程度、もっと大きなものでは子どもの頭くらいになるものまで様々。
まろんの脂肪腫は直径4cmほどの大きさまでゆっくり成長しました。その後手術をするまで4年くらいあったと思いますが、その間はほとんど大きくなりませんでした。
体のあらゆる場所に発生しますが、胸、お腹、内股(鼠径部)、わきの下によくみられます。主に皮下での発生が多いですが、筋肉の中(浸潤性脂肪腫または筋間脂肪腫)や体の深い部分、体腔内にできることもあります。脚にできた場合はしこりというより、足全体が腫れたように見えることも。まろんの場合は背中でした。
脂肪細胞が原因となる腫瘍は、大部分が良性です。しかし、周囲に腫瘍がひろがりながら増殖する浸潤性脂肪腫、悪性度の高い脂肪肉腫(頻度は低い)もあります。
※肥満細胞腫とは似て聞こえるけど別物です。
できるとどうなる?
脂肪腫ができてもほとんどの場合、症状はありません。皮下にできることが多く、大きくなるのもゆっくりだからです。わきの下や内股(鼠径部)にできると、犬が動きにくくなることがあります。また、内股にあるとおしっこをした際におしっこがつき不衛生になりやすく、そのため皮膚病を起こすこともあります。
関節の近くにできると、跛行(足をあげて歩いたり歩きにくいこと)につながることもあります。大きさにもよりますが、筋肉の中や体の深い部分にできると、内臓や神経が圧迫され、臓器のはたらきが障害されることも。その場合は不快感や痛み、便秘、排尿障害がみられます。
なにが原因?
原因ははっきりとは分かっていないようです。中高齢の犬、メス(オスの2倍程度なりやすい)、肥満の犬に多いことから、ホルモンや代謝が関係しているのではないかと言われています。痩せていてもなるときはなります。
どんな犬種でもなりますが、国内での飼育頭数の多いラブラドール・レトリーバーで若干多くみられる傾向があります。ほかにはドーベルマンピンシャー、ミニチュアシュナウザー、コッカースパニエル、ミニチュアダックスフント、ワイマラナーがなりやすいとしている文献もあるようです。
脂肪腫の診断はこうやる
パグカットにすると背中のコブが目立ちます。わかりますか?
診断は獣医師による触診と細胞診が必要です。細胞診では、しこりに細い針を刺してそこから脂肪が吸引されたり、それを顕微鏡で観察することで判断します。まれに脂肪に悪性の細胞がまぎれていることもあるため、触診のみで判断しないことが重要です。
また、筋肉の中に発生する浸潤性脂肪腫のように、細胞診のみでは単なる脂肪腫との区別が難しいものもあります(治療のところに後述)。
体の深い部分にできた脂肪腫は、よほど大きくならない限り日常生活では分かりません。体形の急激な変化や食欲の低下、便秘などなんらかの体調不良をきっかけに、健康診断で偶然見つかることもあります。
ただ、レントゲンやエコーで見つかっても、それだけでは脂肪腫かどうか、良性なのか悪性の腫瘍なのかは判断できません。実際に手術をして病理検査で判断する必要があります。
脂肪腫の治療
脂肪腫は、様子をみていて小さくなったり、なくなるものではありません。良性の腫瘍でも、日常生活に支障がでる場合には手術を検討します。外見や管理上の問題があった場合も手術をして取り除くしかありません。手術には全身麻酔が必要です。脂肪腫の部位や状態、犬の年齢や性格、獣医師の方針により、局所麻酔で行われることもあります。
脂肪腫はしこりから根っこのようなものが生えているので、そこまで取り除かないと同じ場所から再発します。しつこいやつですね。そのため、傷口はしこりのサイズより大きくなります。
手術できれいに取り除いても、ほかの場所から新たに脂肪腫ができる場合もあります。何か所もなりやすい、再発しやすい場合はいたちごっこになります。症状や大きさ、犬の年齢などを考慮して、手術はせずに経過観察をすることも多いです。
浸潤性脂肪腫は筋肉などの組織に入り込んでいるため、手術でもきれいに取り除けない場合があります。その場合は再発の可能性があるため、手術をせずに経過観察をすることがあります。痛みや機能障害が出ている場合には手術をすることもあります。たんなる脂肪腫よりやっかいなイメージです。
ただ、悪性でなければ転移はしないので、余命に大きく影響しません。
決定版!脂肪腫の予防法
現在のところ、脂肪腫の確実な予防法は残念ながらないようです。年齢や性別はどうしようもないですが、肥満は予防・改善ができますね。肥満は万病のもとですので、メリットは大きいと思います。
ミニチュアシュナウザーやシェットランドシープドッグは遺伝的に脂質代謝が狂いやすいため、脂質代謝を改善することで、脂肪腫が改善されていくケースもあるようです。脂質代謝を考慮した食事やサプリメントを取り入れるのもいいかもしれません。
- 運動量を増やす
- 食事中の脂肪量を減らす
- 一日の摂取水分を増やす
といった生活が基本になりそうです。というかこれ普通に健康的な生活じゃないか、とつっこまれそうだけど…心がけたいものです。
まとめ
脂肪腫をふくめてしこりのようなものは何でも早期発見がいいです。動物病院の先生も忙しいですし、飼い主が何も言わなければ、毎回「しこりはないかな?」なーんてやらないのではないでしょうか。
飼い主が普段から触診をしたり、普段の体調の変化など観察したりして、「あれっ?」と思ったときは専門家の判断をあおぎましょう。
良性と判断されて小さいうちは「様子をみましょう」ということもあると思います。しかしこれがくせもの。「様子を見る」と「経過観察」は全く別。様子をみる場合はどこまで様子を見ていいのか、一言聞いてみると、私たちも観察していきやすいと思います。
局所麻酔でぱぱっとできるよと言われたら、手術が大変になる前に、とっちゃうのもありかもしれません。
まろんの場合はこのままコブと生涯を終えるのだよ、と長年思っていたら破裂。それを機会にとりました。たまたま病院も変わったらこともあり、先生の方針にも納得できたので。手術時間は局所麻酔で1時間くらいでした。どのみちとるなら、もっと若いうちにやっといてもよかったかなぁ。なんて思ったり。むずかしいところですね。
まろんの脂肪腫破裂から手術、その後の経過まではこちらをご覧ください(創部の写真あり)。
以上、さいごまでご覧いただきありがとうございました。
参考・引用
手術画像あり
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